Column

「ただ、今を生きる」。それだけ。 サッカー女子日本代表・宇津木瑠美

サッカー女子日本代表で活躍し、フランスリーグ・モンペリエHSCでプレーしていたアンダーアーマー/DNS woman契約アスリートの宇津木瑠美選手。彼女がこの7月、さらなる活躍の場を求め、米国女子リーグ (WSL))のシアトル・レインに移籍した。米国の地に降り立ったのは7月7日。そして7月9日のウエスタンニューヨーク戦で初出場。チームに合流して間もないにもかかわらず、終了間際に鮮烈なゴールを決めて存在感を見せつけた。フランスに渡った2010年から6年の月日をモンペリエで過ごし、選んだ戦いの地は女子サッカー世界一を誇る米国。その決断の裏側にある思いとは?

「アメリカで何がしたい?」なんて質問はナンセンス。

「何かを決断する時はいつも消去法。今回の移籍もそうでした」
シアトル・レインへの移籍に至る経緯を聞いた時、期待したのは気合い十分のコメント。しかし返ってきたのは、意外な答えだった。
「私は移籍を決める時、そして行く前は、何の思考も持ちません。フランスに行く時もそうでした。『さらにレベルの高い所に身を
置きたい』『海外で日本人のよさを出そう』『向こうの選手達からいろいろなものを吸収したい』という気持ちもいっさいない。真っ白でフラットな心で、その場に行く。
今回もそうです。そもそもシアトル・レインは過去、まったくつながりのないチーム。モンペリエへの残留、フランス国内での移籍、日本への復帰、他国への挑戦…さまざまな選択肢がある中で 『これはない』『こうはない』と消去法で現実的に考えていく中で、この話を断る理由はなかった。だから、行く。そんな決断でした」
きっとこれも、何かの縁。そんな気負わぬスタンスで、彼女は続ける。
「『アメリカに行って何をしたいですか?』。そう聞かれるたびに疑問に感じます。なぜそんなことを聞くのだろう、って。
だって、何があるかわからないから、私は行くんです。これから何があるかわからないのに、何をするのか、想定内のことを話して意味があるのかな、と思うんですよ。結局は行ってみないとわからない。だから、何も考えずに挑戦する。それが私のスタンスです」
内に秘めた強い意志と、自分というぶれない軸。今回の決断の背景にもそれがあることは、間違いない。

埋めねばならないものを、埋めずに過ごしてきた。

確かに、モンペリエに残留することもできた。6年在籍して役割もはっきりしており、やるべきことに邁進できる環境にもあった。
「でも、チームを出ようという気持ちになった理由。それはもしかすると、オリンピックに行けなかったことがあるかもしれない。そこは正直、自分でもわかりません。決して意識してはいませんでしたが、どこかに『何かを変えなければいけない』『このままいけば今までと同じペースでしか成長していけない』という思いもあったのでしょう」
昨年のワールドカップ・カナダ大会でボランチ、サイドバックをこなす万能性を見せ、準優勝に貢献。それだけに、リオ五輪に向けた代表メンバー入りは確実とされた。しかし昨年末にケガでコンディションを崩し、今年2月から3月にかけて行われたリオ五輪アジア最終予選のメンバーから落選。女子日本代表も五輪行きの切符をつかめずに終わった。
「その時に一番いい選手を選んだ結果、外れたということだと受け止めています。フランスで一人、体格やフィジカルの差があろうと絶対に負けないことを意識して、できないことをなくしてきた。その点では、やり尽くしたと言い切れる。その結果だから仕方ない。
ただ、試合を見ていて『もし自分がそこにいたら』とは考えました。結果については、自分が出ていても変えられなかったと思う、だって、そんな甘い世界ではないから。でも内容は変えることができたのかな、って。
私はみんなを導いていくポジション。極端に言えば私の仕事は、仲間が何も考えなくても、目をつむっていてもプレーできるように地図を作っていくこと。それが大一番でできなかった心残りは正直、あります。そして前回のロンドン五輪に出られなかったので、今度こそ、という思いもありました。でも何も得られなかった。つまり私は8年分の何かを失っている。そして、埋めねばならないものを埋めずに過ごしてきた私個人の問題も大きいと思います」

試合の時の私は、相当"うざい"人。

リオ五輪出場を逃したことをきっかけにこの8年間を振り返り、変化を求めた。
「私は、海外の選手の思考を導ける選手になりたい。チームにはいろいろな人種がいる。フィジカル全開の人もいれば、納得いかないと途中で怒ってやめちゃう人もいる。そういう選手に 『走っていたら、なぜだかわからないけど瑠美からいいボールが来た!』と言ってもらいたい。
その時、私は 『はいはい。私はそれ、ちゃんと計算していましたよ』って態度でいる。目指すのはそこです。試合の時の私は、相当"うざい"人かもしれません。完全に『上から目線』(笑)。それが快感です」
米国女子リーグ (NWSL)のシーズンは、日本の半分の期間しかない。それでいて、アメリカは女子サッカー世界一を維持している。彼女達はなぜ、それができるのか。その高いポテンシャルはどこから来るのか。そのすべてを知りたいと思っている。
「私にとってアメリカの選手は、全員がスター。ロッカーから出てくるところから、あらゆるたたずまいがカッコいい。だからその国のサッカー選手の一人として、そのすべてを吸収したい。そして、例え今日でサッカー人生が終わりになっても悔いがないように、ただひたすら毎日を全力で過ごす。その先に代表やワールドカップが見えたらうれしいけれど、私は今を生きたい」
二度のワールドカップとオリンピック予選。そして異国フランスで一人、戦い続けた日々。さまざまな思いが交差した8年間を経て、彼女はこれから先の年月をどう彩っていくのか。挑戦はまだ始まったばかりだ。

  

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