Column

高野人母美コラム「BODY PROVES EVERYTHING  ~身体は、すべてを物語る」

Vol.3「新たな自分を知る方法」

私が決して口に出さないと決めているのが「でも」という言葉です。

人は何か新しいことにチャレンジする時や、心地のいい場所から一転して険しい場所に進まなければいけない時には、その状況を受け入れて前に進む覚悟が必要となります。

しかし、その覚悟が強い意志の下で築かれたものでなければ、「無理」「嫌だな」「不安だな」といった弱い気持ちが出てくる。その時につい口走ってしまうのが、この「でも」という言葉。

「でも、私には無理」
「でも、それは私には難しそう」

やってもいないのにこの言葉を発して、自分の中で勝手に結論を出してしまう。それは結局、その時々の好きなことだけを選択して、楽な道に進んでいるだけ。

その時は居心地もよく、幸せな気分にもなれるから、何の問題もないと思うでしょう。しかし人生という長いスパンで見たら、「でも」という言葉を発することは、自分の可能性や視野を自ら狭めることにつながります。

私にとって、ボクシングとは「生きる道」。
その中で、試合になると必ずしなくてはならないことが減量です。

昨年のWBO女子世界スーパーフライ級タイトルマッチでは、約3カ月で体重を11㎏落とさねばなりませんでした。そのため、食事では栄養価の高いものを効率よく摂る必要があり、苦手なクレソンやホウレン草も必死で食べました。そして水分をカットするため、サウナスーツを着て、蒸し風呂状態で何時間も過ごしたりもしました。水分を制限され糖質もカットしますから、常にふらふらの限界状態でした。

そんな時、あることに気づきました。手を動かした時のわずかな音や、近くを通る虫の羽音までも、はっきりと聞き取れるのです。それほどまでに、聴覚が鋭くなっていました。

また、視覚も研ぎ澄まされていました。スパーリングで相手の動きがいつもよりよく見え、飛んでいる虫の動きを目でしっかりと追えて、瞬時に捕まえることもできました。

つまり、五感が驚くほどに研ぎ澄まされていたのです。

それまでは、「世界戦に挑むためにはやらなくちゃ、でも、やりたくない」「でも、もう無理、やめたい」という弱い気持ちがありました。だけど、それがわかって以来、私は「でも」を封印することができました。覚悟を決めて、苦手なことでも全部取り入れてやってみた結果、それまで知らなかった新しい感覚を見つけることができたのは、大きな収穫でした。

1日は24時間しかありません。限られた時間の中で自分を楽な方向に導くのではなく、苦しくても自分を磨き上げ、新しい発見をしていくことが大事だと私は思います。過酷なトレーニングでも、やる前から苦手だからと逃げてはだめ。試して動けば、必ず身体に変化は生まれ、自信を持てるようになる。そして、それが人生を楽しくすることにつながる。

そんなプラスの連鎖を得るために「でも」という意識を取り払う。そうすれば、今まで知らなかった自分に会えるはずです。

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