Interview

なでしこジャパン・宇津木瑠美「美しさを支えるのは、強さ。強さを支えるのは、美しさ。」(前編)

なでしこジャパンの主力として2011年のワールドカップ制覇に貢献。2010年から現在までフランス女子サッカーリーグ・モンペリエHSCで活躍を続ける宇津木瑠美選手。これまでのフランスでの生活、そして彼女の考えるアスリートの女性らしさなどについて、お話を伺いました。

■国際大会では、日本の女子選手が一番男の子っぽい。

--宇津木選手はフランス女子サッカーリーグ・モンペリエHSCに移籍して5年になります。今の生活はいかがでしょうか。

 もうだいぶ慣れました。でも、フランスに行ってしばらくはストレスが多かったですね。日本人は、思っている以上にせっかち。フランスでは、イレギュラーなことがよく起こります。例えば急にブレーカーが落ちたりとか、お湯が出ないとか。正直、日本ではあまりないですよね。そういうことが起きたら、直るのをひたすら待つ。それだけです(笑)。

 それと、フランスは何でも遅い。私は日本ではマイペースで何をするのも遅いと言われるのですが、その自分でさえ「ちょっと、いいかげんにしてよ!」と思うことがよくあります(笑)。例えばコーヒーを頼んだら出てくるまで10分~15分かかったり、お店のレジに5分ぐらい人がいない、なんてことが普通にある。約束の時間も、あるようでない。

--それは確かに、慣れるしかありませんね(笑)。フランスでプロ選手として活躍されて、日本との違いはどんなところでしょう。

 日本には女性、男性、アスリートという、3つの性別のくくりがあるような気がするんです。アスリートは女性、男性どちらでもない存在。でも、フランスは違います。それぞれの性別の中に、アスリートという立ち位置がしっかりと存在する。「スポーツ選手だから女性らしさは必要ない」とか「女性はスポーツをしなくていい」といった考えはありません。ですからフランスの選手達は、きれいなドレスを着る機会も多々あります。そういった時は、誰がアスリートで誰がサッカー選手かなんて、全然わからない。

 そういう意味では日本のスポーツは、女性として美しくなることを目指しにくい環境にある。それは外に出て初めてわかりました。「スポーツ選手は女性らしくしてはいけない」という固定概念が、もしかしたらあるのかもしれませんね。

 こういうことは、海外に出ないとわかりません。例えばワールドカップやオリンピックなどの国際大会では、日本の女子選手が一番男の子っぽく見える。それに比べて海外の選手は、みんなすごくファッションや身だしなみに気を使っている。日本の女子アスリートも、もっと美しさを追求すべきだと思います。

--そういう考えを持ったのは、フランスに行ったことがきっかけなのでしょうか。

 いや、日本にいたころから思っていました。でも日本では、女性らしくしていようとすると「そういう時間があるなら、トレーニングに集中しなさい」「ミスをするのは、そういうことばかり考えてるからだ」などと言われてしまう。ですから、どこか悶々としながら男の子っぽいカッコで練習に行っていました。

 でもフランスで「今までの考えでいいんだ」とわかりました。だから今後、代表戦などで日本に帰ってきた時にその気持ちをなくしてしまったら、日本にいる若い選手達が萎縮してしまうかもしれない。だから、そういった面でもリードしていきたい。それもまた、海外に出た選手としての責任ではないかと、思うようになりました。

■強さと美しさは、それぞれが支え合う関係にある。

--宇津木選手が毎日の練習や試合の中で、モチベーションを保つために意識していることは何ですか。

 私は女性らしさが低下すると、モチベーションもダウンしてしまうんです。今日は身体がむくんでいるな、と思ったら、その日はずっとテンションが低い。そして、そのままのメンタルでプレーしてしまい、例えば上手くプレーできなかった時に「ああ、これはむくんでいるからだ」などと考えてしまう。「チャレンジしよう」という気になれないんです。

 だから、日焼けのケアをしたりきちんとメイクをして試合に入ることで、テンションを保ちます。そうすることで「普段はできないことにもチャレンジしてみよう」という気持ちになれる。そして、仮に監督に少しぐらい怒られても「今の自分ならできる」と思える。常にその状態でいるのはなかなか難しいですが、できる限りそうしていきたいです。

--女性であることを忘れず、少しでも美しくいたい。そのために必要なものは何でしょう。

 強さですね。美しさを保つには、強さが必要だと思います。みんなわかっていることだと思いますが、女性らしくいるのは大変なこと。ヒールの高い靴を履けない、髪をきれいにできない。そんな状況の中でも、気持ちを切らさずに身だしなみをきれいにする。できる限り美しくいようとする。それって強さだと思いますし、それが自分のモチベーションアップにつながる。美しさを支えるのは強さで、強さを支えるのは美しさ。相乗効果だと思います。

 美しさを求めないのは本当の強さじゃないし、強さを求めないのは本当の美しさではないと思います。強さを突き詰めていく時に女性として美しさを求める気持ちが緩んでいると、それが結局、強さの緩みにもつながる。だから、切り離せないんです。

--きっと海外の女子サッカー選手は、そういった強さを持っているのでしょうね。ちなみにフランスのサッカー界では、男女の扱いの差を感じることはありますか。

 サッカーでいえば男子と女子は、レベルもお金も規模も違う。でも男子は女子の選手でもそれなりにリスペクトしてくれるし、男女の差はあまりない。フランス代表は男子と女子は肩を並べていて、同じ規模で同じ宣伝をしてもらえます。そういう意味ではフランスは非常にありがたい環境にあると思っています。女性がはっきりと意見を言い、それを受け入れる国柄ですからね。どちらかというと、男性が静かにしているぐらい(笑)。

■もう一生日本に戻って来れないかも…。そんな覚悟の渡仏。

--ところで、宇津木選手がモンペリエHSCに移籍した背景には、どのようなきっかけがあったのですか。

 U20日本代表のキャンプがフランスであり、フランスリーグの上位2チームと練習試合をして勝ったのですが、当時から見てくれていたのでしょう。その数年後にフル代表のキャンプがフランスであった時、正式なオファーがありました。

 オファーを受け、行くことを即決したので、どんな所だかよくわからないまま。チームに合流するまで全然時間もなかったので、下調べはほぼ何もせずに行きました。今考えてみると、それがよかったのでしょう。中途半端に下調べをしたら、逆にいろいろと不安になって、移籍しなかったかも…。

--日本は2010年当時、まだ女子サッカーの文化はありませんでした。しかも宇津木選手は当時、日テレ・ベレーザに所属するアマチュア選手。プロの選手としてフランスで戦うには、かなりの決意が必要だったのでは…。

 当時はまだ21歳でしたし、もう一生日本に戻って来れないかも、とすら思っていました。それぐらいの覚悟がないと、海外のチームには移籍できないという気持ちがあって…。誰か他の選手が行っていて道があれば、もっと行きやすかったかもしれません。でもフランス女子サッカーリーグに日本人は一人もいませんでしたし、そもそも日本の女子選手が海外に移籍すること自体、当時はほとんどなかった。

 だから、1年目はすごく苦しかったです。言葉も、全て行ってから。まずは最低限、サッカーに必要な言葉から覚えました。1年目は練習の時の指示内容も聞き取れず、練習をやりたい、という意欲もわかず、右も左も行けない。練習でも全然ボールに触れない。そんな状況が続いた我慢のシーズンでした。

 でも監督は待っててくれたんです。コミュニケーションを取れなくても、試合で存在感を出してくれればいい。練習で輪に入れなくても、試合になればそれなりに結果を出してくれる。そんな信頼を私に置いてくれていたのがわかったので、焦らずにいることができた。それが結果として、すごくよかったですね。

(後編に続く)

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