「台本を作ったところで仕方ない。それなら、自分のスタイルを突き詰める」 ボクサー高野人母美、世界に挑む。

■緊張しないように、と思ったところで何も変わらない。それならば、緊張する自分と向き合うしかない。

「始めたころは大好きだったけれど、今は大嫌い。ボクシングが大嫌いです。特にこの世界戦が決まってから、本当に嫌いです」

 第2代OPBF東洋太平洋女子スーパーバンタム級王者であり、アンダーアーマー/DNS womanの契約アスリート、高野人母美選手が11月11日、WBO女子世界スーパーフライ級王者、ダニエラ・ベルムデス(アルゼンチン)に挑戦する。

「この試合が決まってから、すごいプレッシャーを感じます。いろいろなものを背負いながら、たくさんの制限をしているから、イライラも止まらない。気が立っているから、もしかすると発言にもトゲがあるかもしれません。本当にごめんなさい」

 厳しいプレッシャーにさらされているのは、今度の試合の持つ意味がけた外れに重いからだ。前回の試合でOPBF東洋太平洋女子スーパーバンタム級タイトルを奪取。その直後に決まったこの世界戦。すでに5カ月ほど、大舞台での戦いをイメージして厳しい練習を続けてきた。

「本当にストレスがすごくて、今は本当に苦しい。でも私は挑戦者だから、失うものは何もない。今回は人生をかけているので、思いは本当に強いです。今までで最高の自分を作り上げて、リングに立ちたいと思います」

 もともと試合前には緊張するタイプ。だが最近になり、その気持ちとのつき合い方がわかってきた。

「緊張は眠気と一緒。寝ようと思ってもすぐには眠れないし、寝ちゃいけないと思っても眠ってしまうこともある。緊張するしないって、結局は自分の意識でコントロールできない。試合で緊張しないようにしよう、と思ったところで、何も変わらない。それならば、緊張する自分としっかり向き合うしかないんです」

■相手の研究に時間を取られるぐらいなら、自分が強くなるためのトレーニングをした方がいい。

 身長177㎝と長身だけに、リーチ差で試合を優位に運べることも多い。だがその反面、体重調整はキツくなる。そのため毎回、マイナス10㎏近くの減量を強いられるのは仕方ないことだ。しかし減量についても、キャリアを重ねるうちに自分なりの方法がつかめてきたと語る。

「コツは、普段からとにかくたくさんの水を飲むこと。毎日たくさん飲むから、汗をたくさんかくことができる。だから、普段は水分を制限せずにたくさん飲みます。そして試合までにしっかりと身体を作り、リミットプラス2~3㎏まで持って行く。そして計量前日~当日にかけて水抜きで2~3㎏落とします。普段から水をたくさん飲むことで、最後の水抜きでたくさん汗をかくことができるんです。水抜きはつらいですが、それも自分が決めてやっていること。だから、我慢です」

 ちなみに、今回の話を聞かせてもらったのは試合から約ひと月前の10月15日。この段階でまだ、対戦相手の研究はほぼ何もしていない、と語る。

「相手の映像などはぜんぜん見ていないんです。正直まったく興味がないというか、そこに時間を取るならば、自分が強くなるためのトレーニングをした方がよくない? と思っちゃうタイプなんです。

 そもそも調べたところで、試合当日のリング上で同じことをやってくるとは限らない。何をするかわからない相手に合わせて、台本を作ったところで仕方ない。その通りにいかなくなった時、困るのは私だから…。

 だから今回の相手も、アルゼンチン人、ということぐらいしかわからない。きっと向こうは標高が高いからスタミナがあるはずなので、こっちも同じような負荷をかけるトレーニングをしているぐらい。

 以前は、相手のことを気にしていた時期もあります。でも今考えると、ビビッていただけ。どれだけ研究してもらっても、戦うのは自分。調べても、どうなるかはわからない。それなら、最高の練習をした方がいい。そういう考えに切り替えたんです。

 でも、これから毎回そうするかもわかりません。もしかすると、次の試合は相手のことを徹底的に調べるかも。そうやって、あまり決めつけないのが私なんです(笑)」

 今回の試合については、豪快なKO宣言は聞かれなかった。

「KOじゃなくて、10ラウンドをきっちり戦ってポイントアウトする。それが今の目標です。周囲からスタミナが足りないと言われているので、相手を10ラウンド圧倒し続けて、スタミナがあることを見せたい。KO勝ちしてもみんなどうのこうの言うから(笑)、今回は判定でいいので最後までやり切ろうと。この日のためにどれだけスタミナをつけてきたかを、ぜひ見届けてほしいと思います。

 今回はデビュー以来最大の舞台。思えば私はボクシングを始めるまで、ぜんぜん本気で生きてこなかった。モデルだけをやっていたころは、何でもいいや、って感覚で毎日を過ごしていた気がするんです。でも、ボクシングが私を変えてくれた。

 そんなボクシングだけど、今は大嫌い。本当に大嫌い。でも試合が終わった時、もう一度大好きになっていたい。そんな気持ちですね」

 決戦の舞台は、ボクシング史に残る幾多の名勝負を生んできた後楽園ホール。11月11日、彼女は勝ち名乗りを上げることができるのか。勝利、そしてタイトル奪取を大いに期待したい。

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